未成年者のGID者をどうするのか問題

一般演題では

4,小学生のMTF症例(康純、他、大阪医大精神医学教室)

において詳細な報告あり。

プライバシーの問題があるので、
私の感想
のみ書く。

昔は未成年で周囲に受け入れられてたGID者なんて考えられなかったわけで、これについては、医療、教育現場、当事者グループともに、ほとんど未経験な問題である。まったく手探り状態に近い。

特に、教育現場サイドが問題を両親に対し丸投げしてしまう体質は問題だと思う。なんか、例の「いじめ問題」などでも見られる構造がこの問題でもあるのだろうか?

今後、性教育と思春期の第二次性徴をどうしていくかが問題だが、医療サイドには、手探り状態でもなんとか問題を乗り切っていこうとする意志は見えた。

第二次性徴を押さえる薬物(LHAアゴニスト)の使用については、未成年とはいえ2歳〜10歳まで、診療を続けており、本人が望むなら使用してよいのではないかというのが、主治医の判断らしい。

これについては、シンポジウムで、主に精神科医師より反論もある。



シンポジウム1「性同一性障害をめぐる諸問題」(司会 針間克己、東京武蔵野病院精神科)

  1. 法律上の諸問題(大島俊之、神戸学院大学法科大学院
  2. 診断・治療の諸問題(阿部輝夫、あべメンタルクリニック
  3. 外科的治療の諸問題(高松亜子、埼玉医科大学総合医療センター形成外科)
  4. 内分泌治療の諸問題(中塚幹也、岡山大学医学部保健学科)
  5. 小児思春期のGIDをめぐって(塚田攻、埼玉医科大学かわごえクリニック ジェンダークリニック)

おなじみの先生方の討論。ここでも小児期のGID者に対する医療の介入についての議論が闘わされる。

中塚先生が、思春期早期のホルモン療法による医学介入は、自殺念虜を緩和し、自傷、自殺、不登校などの問題の二次的な精神疾患の抑制につながると、積極的な意見。

それに対して塚田先生が、性成熟障害や自我違和性同性愛との鑑別が難しいし、通常の思春期においても、GID者にとっても第2次性徴との葛藤が、自己のアイデンティティの形成に重要な役割を果たしているので、第2次性徴への内分泌学的介入には慎重であるべきと注意を促す。

私見だが、この問題のポイントは鑑別診断の難しさというよりも、子供の自己決定権をどう考えるべきかという問題が根底にあると思う。

クライアントが成人なら、グリーン先生ダイアモンド先生のおっしゃるように、「性同一性障害は自分で診断し、治療できる唯一の疾患」と言いきっていい。

性の問題は、本人でないと判断できない微妙な問題が多々ある。性別を移行するかどうかの判断は、ある意味「患者に自己決定してもらうしかない」という側面もあるからだ。

精神科医師は、「本人の自己決定が正しいか」ではなく「本当に自己決定ができているか?」をポイントに判断すればいい。それで、たとえ手術して、後で後悔したとしても、それは本人がケツを拭いてくれるだろう。



しかし患者が未成年者の場合、当事者は法律的には「無能力者」、自活も難しいから、どうしても、保護者や学校、医師など、周囲の大人たちの価値観に意識的にも無意識的にもしたがわざるを得ない。また、判断できるだけの知識や経験が不足している可能性もある。形式的に自己決定権を認めても、本人の本心からの自己決定なのか、周囲の影響によるものなのかの判別は難しい。


だからといって、GIDの問題は、大人の側にも、実はこうしたほうがいい、ああしたほうがいいと指示できるほどの知見や経験があるわけでもない。基本的には、大人の側が、自己の判断の自信のなさも含め、本人に理解してもらったうえで、本人に判断してもらうしかないのだ。


そういう意味では、12歳からLHAアゴニストの使用許可、16歳よりホルモン療法というアメリカの基準には、それなりの見識があるとも思える。16歳を越せば、自分で働いて自活することも困難ではあってもできなくはないからだ。


問題は、その基準を「独立心」のアメリカでなく、「甘えの構造」の日本で……となると、う〜ん………難しいよね。


性同一性障害の子どもを持つ母親の体験
性同一性障害を受容することの意味〜
(白水美保、他、鹿児島大学医学部保健学科)


6、性転換を望む子どもからカミングアウトを受けた母親の語りなおしプロセス(荘島幸子、京都大学教育学研究科)

私の感想

これが、一昔前の状況だった。
子供がGIDだと父親がそっぽをむき、母親が自責の念でパニックになる。親も子供も状況を受容するまでに、かなりの葛藤と時間を経験する。
小学生のGIDなんて当事者にとってすら未経験な事態である。昔は、相談すらできず、なんとか周囲に合わせていくだけでも精一杯だったわけだから……。

ところで、解釈学的現象学的分析(IPA)???。なんかすごいテクニックを使っているみたいですけど……、面接のテープ興し、大変だろうなあ? 現象学をちょっとカジっただけのズボラな私には絶対に無理だ……(^^)

GID特例法〜日本、韓国、トルコ法の比較〜、(伊東聡、FTM関門・北九州)

GID特例法〜日本、韓国、トルコ法の比較〜、(伊東聡、FTM関門・北九州)

まずは伊東君の発表の報告から……。

韓国の場合

大法院(日本でいう最高裁)の例示により、韓国のGID者の戸籍の性別変更について、日本の特例法よりも要件が厳しいものができ、とくに日本の特例法の「子なし要件」もついたという報告もあったが、厳密に言えばこれは正しくない。


ここらへんは、日本と韓国の違いが顕著で、法律がなければ何もできない日本の司法と違って、韓国の司法は日本よりも権限が大きい。条理裁判で判決が下せる。つまり民事では法律がない場合には、韓国の司法は、常識的な条理に基づき判断を下してよいという考え方がある。結果……

  1. 特例法などなくても、判事の裁量だけで既にGID者の戸籍の性別変更はすでに行われている(1995年)
  2. 問題は、判事によって裁量がまちまち(中には、ホルモン療法だけで変更してしまった例もあるようだ)だと、不公平で混乱が起きるので、ちゃんと基準を決めようということで、立法下の動きがある。
  3. 大法院の出した「例示」は、あくまで「例示」らしい。要件がかなり緩和された(子なし要件なし)民主労働党の法案も別にあり、現在、国会審議中であるとのこと。後は結果待ちらしい。


トルコの場合

子供のいる当事者の扱いについても、明記してある。趣旨は、子供のいるGID者が性転換して戸籍を変更する場合、子供の親権はなくなるかわりに養育費を払うべしということらしい。


つまり、イスラム教国の民法のベースは、家父長制だけど、父親が性転換して女性になった場合、父親として子供を扶養、養育、監護することは不可能になる。
そのかわりに、子供や妻のため、生活に困らないようお金はわたしてやれということらしい……。

う〜む。家父長制なら、家父長制なりに、きちんとスジを通して、最後はお金でかたをつけてしまうあたり、イスラム社会らしいというか……これはこれでありかも。


トルコのケースは、案外日本の特例法の見直しを時には、一つの参考になるのではということだった。

私の感想

日本の民法の場合、伝統的な家制度と大陸法諸国と英米法諸国の家族制度のあいまいなミックスだから、保守も革新も、どこかでスジの通し方がわからなくなってしまうんだろうな。

「GIDと生殖」

面白かったのでメモ

教育講演
GIDと生殖」(石原理埼玉医科大学産婦人科

いまだ子なし要件でもめる法律界をよそに、生殖をめぐる状況はどんどん変化している。

いま生殖医療(対外受精など)を利用して生まれてくる子供は、日本で65人に一人、デンマークでは30人に一人に達している。すごい、あと20年もすれば、生殖医療で生まれた人だらけ。

これからは婚姻しているGID者や同性愛カップルの生殖医療の利用も増加していくであろう。

また、アンケートによるとFTMの方の半数以上が、ヒトES細胞の研究のため摘出した自分の卵巣を提供してもよいと解答しているが、日本ではこれが倫理的な問題とされてなかなか話が進まない。こっちもなんとかして欲しいものだとのこと。

私の意見
卵巣を提供した本人の意思をどうやって確認するかが問題だよね。
そういえば富士見産婦人科病院事件というのが過去にあったけど……。
案外、アメリカみたいな宗教的な倫理観があって反対されるよりも、日本では、「政府と医者が作る制度って信用できねえ……」と、マスコミや国民に思われてしまっているところに根本的な原因があるような……(^^)

ちなみにMTFの方が望まれる子宮移植手術はまだまだ難しい(まだ動物実験レベル)そうです。可能であるかのような報道http://www.asahi.com/health/news/TKY200701160275.htmlは、よく知らない記者が書いたガセですので注意。


あとGIDアスペルガーの関係、性別の認知機能の問題についても発表が2件ほどあったけど、一つは症例報告、もう一つは調査中で確定的なことは言えない。

ホルモン療法による副作用の問題

気になる副作用は以下のとおり、
深部静脈血栓症MTF)、動脈硬化FTM)、男性型脱毛症(FTM)、骨粗鬆症FTM)など

男性型脱毛症について

特別講演
男性型脱毛症の原因と治療 (棗田豊横浜市立大学医学部客員教授


ようするに、ハゲです。
アンドロゲンを使っているFTMの人だけじゃなく、身体のメインフレームが男性のMTFも、通常の男性であってもしごく気になるテーマ。

メモした知識を少し。

トリビアの泉でも有名になったこのトリビアから

「かの有名なギリシアの哲学者、アリストテレスは『スケベな男はハゲる…』と唱えていた」72へえ

紀元前4世紀〜5世紀、ヒポクラテスアリストテレスは宦官がAGA(Androgenetic Alopecia 男性型脱毛症)にならないことや、性交を始める年頃になる前にAGAは発祥しないことを喝破しており、AGAは生殖機能と関連づけられて考えられてきた。

1942年 J.B.Hamiltonの研究によると

AGAの原因はテストステロン(男性ホルモン)

AGAの素因は遺伝する。(ハゲの家系がある)しかしこれはテストステロンの生産量より、毛曩のホルモン感受性が遺伝して影響しているらしい。

16歳以下で去勢した人はAGAは発症しない。20歳以降に去勢したMTFは危ないかも?

附則トリビア

ちなみに頭髪が薄くなってニューハーフを廃業することを「ハゲ落ち者」と呼ぶ隠語が昔はあったらしい(私記)……(^^)。


その後の研究で

原因はテストステロンというよりも、5α-還元酵素によってテストステロンが変換してできるジヒドロテストステロンが直接の原因らしい。

胎生期には
テストステロンが脳や内性器、ジヒドロテストステロンが外性器の男性化をうながす。

成長後は
テストステロンが筋肉や骨格、ジヒドロテストステロンが髭の発現、AGA、前立腺の肥大などを引き起こす。

これは男性で5α-還元酵素Ⅱが欠損している場合、胎生期に男性外性器が発達せず。女児と間違われて育てられ、思春期を迎えて、声変わりや、筋肉質化、陰茎の成長、
射精、女性への性欲などが現れて男性と認識される症状があり、その方たちの研究によって明らかになった。ほぼ完全に男性化するが、髭は生えず、決してAGAや前立腺肥大にはならない。

その研究から5α-還元酵素を特異的に阻害するファナステリド(商品名プロペシア)という薬品が、前立腺肥大の治療薬として開発され、最近ではAGAの治療薬としても使われている。

効果はそれなりにあるようなので、ハゲでお悩みの方はぜひどうぞ。

附則トリビア
ちなみに「オランダの有名なミニペニス形成の先生は『Hage』先生」(高松亜子、埼玉医科大学総合医療センター形成外科)いや、直接は関係ないんだけど……(^^)。

骨粗症について

シンポジウム2
「骨をめぐる諸問題」(司会 永井敦、川崎医科大学泌尿器科

  1. 動物モデルとしての卵巣摘出術による骨粗鬆症の病態解明とその治療(菰田二一、埼玉医科大学生化学、宮崎孝、埼玉医科大学衛生学)
  2. 歯周病と全身疾患との関わりについて(山本松男、昭和大学歯学部歯周病学)
  3. GID骨粗鬆症について(宮島剛、埼玉医科大学整形外科)

以下、知識を……。

骨は、破骨細胞という細胞が組織を破壊し、骨芽細胞という細胞が組織を作り出す
というサイクルで代謝している。
道路を整備するのに、破骨細胞が古くなってでこぼこになったアスファルトをはつり、骨芽細胞がアスファルトを新しく舗装しなおしていくようなもの。その作業を身体のあちこちで4ヶ月かけて行ない。作られた骨組織は40ヶ月持つらしい。

エストロゲン(女性ホルモン)は破骨細胞の働きを抑制する作用がある。
ところが女性が閉経を迎えるとエストロゲンが不足するため、破骨細胞の抑制がなくなり、どんどん骨密度が減少し、骨の強度が低下する。これが骨粗鬆症である。

FTMは、ホルモン療法、卵巣の摘出など、人工的に閉経状態を作り出しているため、20代、30代から骨粗鬆症を発症した事例がある。(調べてみたら、かなり深刻だった)
この病気は、骨折を起こすまで自覚症状がないため、病の進行に気が付いた時には、手遅れの可能性もある。40代で脊椎損傷で車椅子とか……。
FTMの方は、主治医と相談して、できるだけ早期に、定期的にちゃんとした病院で骨密度検査をうけることをお勧めするとのこと。

治療薬としては、エストロゲン、SELM、ビスフォスフォネートがある。

エストロゲン、SELMは女性ホルモンとその誘導体なので、FTMが使用するならビスフォスフォネートが適切であろう。骨密度の回復には時間がかかる(「医師の上にも三年」という宮島先生のオヤジギャグのオマケつき)ので、できるだけ早い時期での対応が望ましい。

GID(性同一性障害)学会 第9回研究大会

行ってまいりました。
http://www7a.biglobe.ne.jp/~gid-9/

以下報告。


会場のある航空公園駅到着
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/f2/Koukukouen_20051008_YS-11.jpg

おお、名機YS-11だ。懐かしい、いい機体だったよねー
プロペラ機なのにジェットエンジンの音がする

というのは、どうでもいいけど……。

会場は、所沢市民文化センターミューズ

研究会の隣の棟ではヤマハ音楽教室の発表会も開かれていました。

今回のGID研究会の大きなテーマは……。


1.未成年者のGID者をどうするのか問題
2.ホルモン療法による副作用の問題


でした。私、個人的には伊東聡くんの

3,GID特例法〜日本、韓国、トルコ法の比較〜
伊東聡(FTM関門・北九州)

にも興味があった。

パワーアップユアライフ

パワー・アップ・ユア・ライフ―力強く生きるためにブッダが説いたカルマの法則

パワー・アップ・ユア・ライフ―力強く生きるためにブッダが説いたカルマの法則

外見は、ビジネス書っぽいけど、中身は、本格的な仏教書といっていい。

煩悩とか、縁起とか、因縁とか、業とかという言葉の本来の意味がよくわかる。
そうか、そういう意味だったのか(^^)

恐るべき子どもたち

恐るべき子供たち (光文社古典新訳文庫)

恐るべき子供たち (光文社古典新訳文庫)

光文社の古典新訳、アマゾンの批評を読むとなかなかいい本らしい。
恐るべき子供たちとはなつかしい。昔読んだ、望都さんの漫画を思い出す。すごく読みたくなった。

恐るべき子どもたち (小学館文庫)

恐るべき子どもたち (小学館文庫)

カラマーゾフの兄弟3 (光文社古典新訳文庫)

カラマーゾフの兄弟3 (光文社古典新訳文庫)

こっちも出ていた、買うのはいいが未読の本ばかり増えてもなあ。
カラマーゾフは新訳でも難解で、二巻の大審問官のところしか読んでないよ。